催眠術では思うように効果が得られなかったが、やっぱり集中力をつけさせたい・・・。何でも試してみようという思いで今度は座禅をさせてみることにしました。
　ある土曜日、午前中の授業を終え一泊二日の予定で全部員と一緒に防府市にある極楽寺という禅寺に赴きました。住職さんの説明のあと早速座禅を組まされたわけですが、目は半眼、見るでもない見ないでもない、結んだ手の親指と親指の間隔はセロファン紙が一枚入る程度、着くでも着かないでもない、背筋を伸ばし足はそれぞれ膝の上に、雑念はすべて払いのけ頭には何も思い浮かべてはいけない・・・・難しい修行でした。
　体の硬い私にとって最も厳しかったのは足を組むことです。両足を組むことは到底できず片足だけを上げて始めたのですが、しばらくすると左足のくるぶしが右足の膝うえに食い込む感じで何とも言えない激痛に襲われだしました。それでも私は耐え続けました。
　そのうちあちこちから「バシッ！　バシッ！」という音が聞こえてきます。雑念が入ると体は微妙に揺れるそうで、すぐ住職さんは察知され、背後からすーっと近づき手に持つ警策（キョウサク　背中をたたく長い板）でしたたかに生徒の背中を叩かれているのです。
私は、恐怖感はあるもののどれだけ痛いのか試してみたいという好奇心から合掌をして頭を下げました。(これが自主的に警策で叩いてほしいという合図　雑念が浮かんで叩かれたのではありません)　すると今までで一番大きい「バシーン！！」という音とともに警策は打ち下ろされました。ところがです。今まで味わったことのない快感が身体中に走ったのです。「何なのだ、この快感は？」と考えてみると、背中に激しい痛みを覚えたことで、つかの間あの足の痛みを忘れることができたのだと気づきました。「そうか、苦しみも悲しみも痛みも、全ては相対的なものなのだ。もっと強い苦しみにあえば、今迄の苦しみなんかものの数ではなくなる。野球の練習のつらさなんて、例えば病気で入院して体を動かすことができない、好きな野球もできない、そんな苦しみに比べればどうってことはない。」と思えるようになったのです。子どもたちにも辛い経験だったのでしょう。弱音を吐きそうになるとすぐ「何ならまた極楽寺に行くか」と声をかけるとすぐシャキッとしてくれるようになりました。
日常から一歩踏み出すにはエネルギーがいりますが、とにかくやってみるべきです。やってみれば必ず新しい発見があるはずです。もし失敗したら後戻りすればいいだけですから。

防府市にある極楽寺にて・・・