MENU

新着情報

2012年8月1日 さかもと手帳 Vol.17 《初めての甲子園》

2012年08月01日

 昭和53年、南陽工業高校は春(第50回全国選抜高校野球大会)、夏(第60回全国高校野球選手権大会)と甲子園へ連続出場を果たしてくれました。当時の私はまだ33歳、駆け出しの新米監督で甲子園での戦い方など分かるはずもなく、自然体で臨む以外にありません。ただ、山口県を出るとき、先輩の監督仲間から、「緊張して試合前のシートノックは手に鳥もちがついている感じで、手からボールが離れないぞ。」とか恐れさせられていたので、そのことだけは心配の種でした。
 甲子園での初めての試合は開会式の当日、3月27日の第2試合目、5万人の大観衆で埋まるグランドへ足を踏み入れてまず感じたのはスタンドのなんともいえない美しさです。その一方、すり鉢状の巨大な闘牛場へ追い込まれた感じとでも言おうか、もはや逃げ場はない、戦うしかないという一種の開き直りの感覚になったのを覚えています。シートノックもしましたが意外と平静な気持ちで終えることができました。私はさして度胸が据わって入るほうでもないのに、なぜこんなに平常心を保てているのか不思議でもありました。ノックが終わりベンチに帰って改めてスタンドを見上げるとやっぱり美しい。お客さんのカラフルな衣装が、色とりどりの花が咲き乱れる花畑に身を置いているように感じさせたのでしょう。そう、私たち田舎ものにとって5万の観衆なんて、それが人間の集まりとはとうてい信じられないのです。むしろ、地元の徳山市野球場や新南陽球場での試合のほうがお客さん一人一人の視線を感じてしまい、よほど緊張するものなのだということも発見でした。
 それでも、試合開始のサイレンの音はいやがうえにも緊張感をかきたてます。ストライクは入るのか、フライが上がったらきちんと落下点に入れるか、ゴロがきたら両手で捕って正しく送球してくれるか、取り越し苦労を重ねていると、相手トップバッターが津田君の投じた一球めをライト線ファールゾーンにフライを打ち上げました。右翼手小川君は脱兎のごとく突っ込んでボールめがけて頭から飛び込み、ダイビングキャッチを試みました。そう、5メートルぐらいは飛んだと思います。惜しくも捕球はできませんでしたが、この闘志あふれる、高校野球の真髄をみせるようなプレイと、直後に起こった満員の観衆の「うおぉー」という球場を揺るがすような大歓声が今も耳に残っています。このワンプレイがその後の南工に普段着の野球をさせるきっかけになったともいえます。  
 初出場ながらベスト8まで勝ち進み、お世話になった方々にある程度はご恩返しができたとは思いますが、今度は夏の大会に向けて追われる立場で精進しなければなりません。
追われる立場に身をおくなんて初めての経験ですし、なんとも重苦しいことになったものだというのが正直な気持ちでした。

 さて、今年の夏の甲子園出場校が全て出揃いました。古豪校あり、新鋭校あり、どんな熱戦が繰り広げられるのか、今からワクワクしています。山口県代表は宇部鴻城高校、甲子園は初出場だそうですから、負けてもともと、当たって砕けろで向かっていけるのですから最も戦いやすいと思います。エースの笹永投手のでき次第では面白い存在になるのではないでしょうか。いずれにしても夏の高校野球は球児たちの夏祭り、存分に楽しみ、暴れてきてほしいものです。
 


甲子園を埋める5万の大観衆


さかもと手帳のページへ
 
Home会社概要アクセスお問い合わせ